❑..❏だ、である調の映画評❏..❑ 

ファッション

パーソナルスタイリスト ウスキ ヨシエがグッときた映画を不定期に紹介(新作ほぼ無し)。
メジャー作品はほぼありませんが、紹介する映画はぜひ観ていただきた作品ばかりです。

 

パリ、テキサス
監督ヴィム・ヴェンダース
1984年/西ドイツ、フランス、ドイツ制作

※数年前に映画レビューサイトに書いた内容の一部加筆修正版

「ひと握りの愛情」

昔から切ない映画が好きなのである。
スカッとする映画よりも余韻を噛みしめるような映画に惹きこまれるタチなのだ。

この映画ももう何回観ただろうか。
軽く5回は観てると思う。
記憶が曖昧なのは劇場で観たことがないせいかもしれない。

1984年の映画。初めて観たのは1990年代、私は高校生だった。
同じくヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン天使の詩」を観た流れで、別の監督作を観てみたいとビデオを借りて観たのが最初。

「乾いた映画」当時の私が感じた印象である。そしてこの「乾いた映画」に堪らなく心を奪われた。
テキサス州にあるパリという地名の場所。そこで両親は愛を育み、自分は誕生したのだと、主人公トラヴィスは弟に語る。

人と人との間には色々な愛の形がある。
兄弟愛、夫婦愛、親子愛、友愛とか恋愛ももちろん。

様々な愛情。その思いは「思いやり」となって相手に伝わっていく。
でも、その「思いやり」の裏では人知れず悲しみや不安、淋しさを抱えていることもある。
それでも、自分の愛する人に「思いやり」を伝えていこうとする決して押し付けではない優しさが、実に丁寧に描かれてる映画だと思う。

「乾いている」と言いつつ、私はこの映画を観るたびに毎回、涙する。
ラスト近くのシーン。
ストーリーは割愛させていただくのだが、トラヴィスが別れた妻ジェーンとマジックミラー越しに対面する。
やっと再会を果たしても、まるでふたりのこれからを象徴するかのような、マジックミラーで隔たれた空間での会話。
ジェーンからはトラヴィスの姿は見えない。
物理的な障害を乗り越えても、超えられない見えない壁が人生にはある。そんなことをこのたった壁1枚隔てたシーンで強烈に感じる。
何かの幸せのためには何かをあきらめないといけないときがある。すべては手に入らない。
まるで砂を掴むよう。指の隙間から溢れ落ちる砂はなすすべもなく、そのまま落ちていくのを見守るしかないのである。
そして、ちっぽけな私たちにできることといったら、溢れ落ちずに手のひらに残ったひと握りの砂に愛情を注ぐことぐらいなのだ。

そう、砂漠で生を受けた男にできることはこれくらいということなのかもしれない。

トラヴィスが別れた妻ジェーンと息子ハンターのためにできること…。

円満だけが答えではないこと…。

ラスト、トラヴィスがホテルを見上げている。窓の灯りの向こうを思って。
そして、また、淡々とした足取りでトラヴィスは夜の街に消えて行くのだった。

 

最後に、別れた妻役のナターシャ・キンスキーの実は後ろ前に着てるモヘアのセーター姿がとびきりキュートなこと。
ふたりの息子ハンターのちびっ子アメカジファッションが時代を超越しておしゃれでかわいいこと。
そして、ライ・クーダーのスライドギターの音色が堪らなくカッコイイので、私はサントラを持っていて、今でも夏になると聞きたくなることもここに、記しておく。

ここまで読んでくださった方に感謝。

友だち追加